Research of manpower supply business field.

他に類のない派遣業界幹部向けの会員制メールマガジンを発行し始めて4年になります。派遣業界に 関する話題を斬新独特の切り口で取り上げ、多くの派遣会社管理職の皆様に愛読いただいております。そのバックナンバーの一部を御覧下さい。

東田康之

スタッフへの交通費支給
20日パソナが2008年5月期の決算を発表しました。本号はその決算発表で南部社長が同時に発表した派遣スタッフに交通費支給のニュースを取り上げます。この内容は本日の多数の朝刊各紙(確認できたところで22紙)に取り上げられました。ほとんどが同じ文章ですので通信社からの配信でしょうが、その中でもっとも記事量が多かったのが日経新聞です。以下ご覧下さい。

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               日本経済新聞2007年7月21日(土)朝刊

派遣社員に交通費
パソナ 企業側に上乗せ要請           

 人材サービス大手のパソナは20日、派遣社員に対し交通費の支給を始めたと発表した。大都市周辺で1カ月以上継続して働いている人が対象で下限は3000円。派遣先企業に任意で交通費全額の上乗せを要求し、実際の企業側の支給が3000円に満たない場合は不足分をパソナが負担する。人手確保が難しい地域で派遣社員の囲い込みを図る狙い。給与と別に交通費を支給する取り組みは、派遣業界大手で初めて。

 東京23区、名古屋市内、大阪市周辺にある取引企業に対し、派遣スタッフが使った交通費を実費で支給してもらうよう要請する。例えば企業が1000円だけの支給を認めれば、下限額に満たない2000円分をパソナが支払う。対象となるスタッフは約2万人。パソナは1年間の持ち出し分が5億円程度とみている。

 景気回復を背景に企業が人的投資を積極化するなか、人材派遣会社もスタッフの確保が厳しくなっている。特に求人案件の多い大都市周辺では競争が激しく、パソナは交通費支給で待遇の良さを強調し、ライバルとの差別化を図る。


人材派遣業界では交通費を個別に支払う習慣はなかった。業界団体の日本人材派遣協会は「ほかの大手も対応せざるを得ない」(松田雄一専務理事)と見ている。
                                
                                 以上

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さてこの記事に1箇所誤りがあります。下から2行目の『人材派遣業界では交通費を個別に支払う習慣はなかった。』がそれで、交通費を別途支払っている派遣会社はたくさんあります。これは記事5行目にあるように「派遣業界大手で始めて」が正しいのです。


そもそも派遣スタッフに支払う時給に通勤交通費を含むか、別途支払うかは業界としての特にルールもなく規制も無く、各社好き好きで今に至っております。平成元年にこの業界に入った私が当社の社長から聞いたところでは、創業当時(昭和62年)は別途支給にしていたとのこと。さして深い理由は無く、給料と別に交通費を支給するのはアルバイター、契約社員と同じ感覚であったと言うのです。

ところがおりからの求人増と登録者不足により各社スタッフ獲得競争で募集時給を吊り上げる会社が相次ぎ(勿論請求アップも同時です)、テンプが30円上げたらうちは50円と、他社にらみの時給アップ競争に入ったころ、どこかの大手が交通費含みの時給での募集に切り換えたと言うのです。そうすると、見かけの表示時給が約100円高くなるのでそちらにスタッフが流れることを恐れて各社雪崩を打って交通費含みに切り替わってしまったと言うのが社長の説明でした。

もちろん従来どおり交通費別途で募集している会社は広告の時給欄に「交通費別途支給」とは明示するものの、「含み」の会社は「交通費含む」とは書きませんので、どうしても表示上の比較では別途会社が不利になります。この構造は変わることなく今に至り、競合を意識する派遣大手で交通費別途支給の会社はありません。


それでは交通費別途支給はどんな派遣会社がしているかと言うと、主に資本系派遣会社に多く、その理由として親会社の意向が反映される結果が多いようです。派遣になじみのない親会社の人事から見れば自社に派遣されてくるスタッフが社員のように交通費が支給されないのはいかがなものか、という事でしょうし、交通費支給が当たり前の親会社から出向転籍されておられる派遣会社幹部の皆様にとっても創業時の決め事として別途支給は自然な発想であったかと思われます。そして業界未経験の幹部の交代が繰り返される中でこの懸案は先送りされて今に至ると言うわけです。


しかしこれからは私の感想ですが、含み支給と別途支給とどちらがスタッフに優しい制度かというと文句無く別途支給に軍配が上がります。理由ですが、交通費は所得にはならないので所得税、住民税の算定対象にはならないのに対し、含み支給ですと交通費部分にも上の税金がかかってきて、スタッフは負担増になってしまうのです。1回乗り換えで1日往復交通費750円(時間給換算100円として)とすると年間交通費総額約18万円(240日)で、これに所得税・住民税(社会保険料控除後に15%)がかかりますと負担増は2万7千円。時間給換算(1800h)で15円が別途支給で軽減されます。

一方交通費別途のマイナス点は何か? スタッフ側には何も無く、会社側のみにあります。
1.派遣会社の事務負担増。
2.通勤経路水増し申告のリスク
3.募集が不利

プラス面は? 
1.遠方在住のスタッフが就業OKしてくれやすいのでマッチングエリアが広がる(しかし通勤
疲れで続かない可能性あり)。
2.派遣元の負担として交通費込みの場合は法定外残業をしたとき必要となる25パーセント増
し部分が、交通費別途の場合小さくなる。

交通費をスタッフ時給に含むか含まないかは以上のようになかなか難しい判断なのですね。


さて今回のパソナの決断をどう受け止めるか?

上記記事の『対象となるスタッフは約2万人。パソナは1年間の持ち出し分が5億円程度 』から計算すると、スタッフ一人当たりのパソナ年間持ち出し額は2万5千円。時給に直すと(1800h)14円相当です。交通費うんぬんは本質ではなく、結果として長期スタッフに対し一人にならすと会社負担で14円の時給Upをするということに等しい。このことによるパソナのマイナスは利益額と利益率が落ちること。

一方プラスは
1.交通費一部支給が強い訴求ポイントとなり募集費(今年度14億円)が 抑えられる。
2.顧客への値上げ理由の大義名分が立つことから値上げがスムーズに進 む可能性が大きい。
単なる値上げでなく「スタッフへの交通費をお願いします。駄目なら当社が負担します。」を
断わるのは担当者にとってうしろめたいでしょう。
3.この発表のパブリシティ効果だけでも数千万円の広告の値打ち。
4.「スタッフを思うパソナ」のイメージ発信

南部代表の性格から見て、大真面目なスタッフ思いのトップダウン策でしょうが、私のような皮肉屋が見ると、「肉を切らせて骨を切る」結構したたかな計算が秘められた策に見えるのですが皆様いかがでしょう。

最後に交通費別途支給の仕事がどれだけあるか調べてみました。派遣募集サイトの仕事件数が多い上位4サイトの関東・関西の掲載仕事件数のうちの交通費別途件数とそのシェアです。