Research of manpower supply business field.

他に類のない派遣業界幹部向けの会員制メールマガジンを発行し始めて4年になります。派遣業界に 関する話題を斬新独特の切り口で取り上げ、多くの派遣会社管理職の皆様に愛読いただいております。そのバックナンバーの一部を御覧下さい。

東田康之

派遣会社の新卒採用 考
オフィス街を歩くとリクルートスーツが初々しい若者を見かける頃になりました。自分の35年前を思い出して「おい頑張れよ」と声のひとつもかけたくなります。そんなわけで今回は派遣会社の新卒採用について。

そもそも人を扱う人材派遣業において、社会経験のない大学新卒者がこの仕事に耐えられるかというのは派遣会社経営者の昔からの課題でありました。

というのも、この派遣会社の仕事というのは社会経験豊かな人材でないと出来ないのではないかという、「確信に近い思い込み」がこの仕事に携われば携わるほど強くなるのです。たとえば営業職において求人開拓活動やオーダー聞き取りについては新卒でも充分こなせましょうが、スタッフフォローについては、社会経験バリバリの30歳前後のスタッフと派遣先担当者との間に生じるややこしい揉め事を間に入って適切な判断能力で処理するといった「高度な判断業務」を新卒がこなせるのか、またコーディネーター業務において社会経験豊かな登録者に「私が身を預けられる人」との信頼感を持たせられるか、という懸念です。


これは派遣会社創業者が身をもって体験したことで、創業期は新卒など採用できるはずもありませんので中途採用でスタートするものですが、その社会経験豊かなはずの中途採用者でもこの派遣という仕事に適応できず辞めていく(辞めてもらう)のを見るにつけ、「ましてや新卒においておや」と考えるのは無理からぬことでしょう。したがって今の大手派遣会社といえども新卒の採用に踏み切ったのは創業後相当時間が経ってからです。中ではパソナが一番早かったと思いますが、これは南部代表が大学卒業と同時に創業しましたので自分より年齢の若い社員を採用するとなると、自然新卒に向いたのでしょう。推測ですが。

ところで大手の新卒採用開始といってももこれは中途採用との併用であり、年間採用数の何割を新卒でまかなうかというバランスの問題であり、全数新卒で固めるというものではありませんでした。テンプスタッフで言えば新卒の全採用数に占める割合が高くなったのはここ2-3年のことであり、それまでは中途採用が大半であったと聞いております。


またこれらの会社にしても新卒の配属職種は営業職が殆どで、コーディネーター職に配属というのは聞いたことがありません。フレッシュな新卒は顧客には向けられるが「社会経験豊かな登録者に「私が身を預けられる人」との信頼感を持たせられるか」という課題のあるコーディネーター職は社会人経験者に、という「掟」は今でも生きているようです。


さてここで私が身をもっての新卒採用体験を申し上げると、私は平成元年、設立3年目のシーズスタッフ(現リクルートスタッフィング)の初の地方拠点である大阪支社開設支社長としてこの業界に37歳で入り、創業メンバー7人で始めましたが、支社開設2年目に新卒採用しました。関西大学男1名、岡山大学女1名でした。以降大阪では毎年1-2名採用し続けました。当時のシーズスタッフは新卒中途併用型で、比率は半々、新卒に占める女性の割合は8割(女子学生のほうが優秀で、結果的にこの比率になりました。それも毎年です)。全員が営業配属。当時は新卒学生とそのご父兄にとって人材派遣業界はまったく無名の業界で、かつ当時はイメージ的にもあまりよくなかったのです。当時のわが社の社長はそれに気を遣い、毎年西新橋本社横の割烹「酔心」に内定者と親御様を招待し、そこで幹部全員が接待に勤めたものでした。そして入社日が、、、。その後の新卒の彼彼女たちへのフォローは、、、、。
いや大変でした。


ここで私の体験からの新卒採用のメリットとデメリットをまとめて見ましょう。これは中途採用のメリットデメリットと裏表になっていることにお気付きになると思います。


新卒採用のメリット

・真っ白なところから社風に染め上げられる。
・新卒が何期も重なると社風が醸成されて一体感が出る。
・若くしての入職なので実働期間が長い。
・組織の年齢構成のバランスが回復できる。
・先輩社員たちに緊張感が生まれる。
・中途採用より優秀な素材を採用できる可能性が高い。


新卒採用のデメリット

・採用過程で膨大な費用と労働コストがかかる。
・入社後の教育で上司先輩に大きな負荷がかかる。
・早期退職の可能性
   a 適正ミス採用
   b 新卒を受け入れられる風土・体制ができていなかった


列挙した新卒採用成功のメリット面はいまさら言うまでもないことで、これだけをみれば新卒採用はしたほうが良いに決まっています。問題は上記デメリットとの相対見合です。新卒採用の成否はこのデメリットをいかに極小に抑えられるかにかかります。

上記デメリット項目の第一項はこれは極小に抑えようという姿勢そのものが間違いで、優秀な人材を採るのに手間暇を惜しむべきではありません。ただしこのための採用パワー・コストは非常に大きなもので、これがなければ本業に振り向けられるパワーを割いての採用活動であることを充分認識する必要があります。優秀な新卒5人を入社させるには、辞退率5割を見込むと内定者数は10人は必要で、そのためには最終面接に上げる人数は倍の20人、その前の2次面接にはその2倍の40人、その前の1次面接に呼ぶ人数はその3倍の120人が必要です。これは応募してくれる人数ですので、そうすると会社説明会には何人の動員が必要でしょう?当然これらの仕事には専任の人事だけではこなせず、営業管理職等の応援が必要になります。本来の仕事時間を割いて応援に駆けつけるのです。


またここでの面接が厄介で、中途採用の面接に比べて数倍のエネルギーがかかります。中途採用ですと、同じ社会人としての共通価値観がありますので、判定はたやすいものがありますが、新卒は社会を知りませんので、下手な回答をされてもその発言が社会に出ていないことによるものか、本当に不向き人材だからの発言なのかが判定しづらいのです。面接者はそこを踏み込んで判断しなければなりませんので疲れること甚だしい。社会人なら当社志望の理由を「人の喜ぶ顔が見たい」などと言ったら「いい歳してホスピタリティ過剰の現実知らず」として落としますが、つぶらな瞳の新卒はみんなこれを言います。経歴なしの学生を1時間足らずの面接で人材ビジネスの適正を見抜くことは何年やっても至難の業でした。それが実はデメリットの一項目であげた「適正ミス採用」に結びつく原因になります。特に「適正関門」のきつい人材ビジネス業で、真っ白な新卒から適材を見抜くことは難しい、というのが私の感想です。


そしてこの後に現場管理職と先輩メンバーに身柄を預ける現場配属。ここで問題は先輩たちは中途採用で入社していますので、自分たちが丁寧に育てられた経験はなく、新卒社員の育て方は知りません。おまけに担当マネージャーは部下の管理と業績責任で一番忙しく負荷の高いポストです。ここに世間の知らない新入社員の教育役が回ってくるわけですからそれは大変。入社初期は仕事の指導よりも「カウンセリング担当」というほうが近いかもしれません。能力一定ですと当然このパワーは仕事に割くパワーから引かれます。しかもこのかかわりしだいで新卒は生きもすれば(成長)死にもします(退職)。

私が現職についた後にある大手独立系の営業課長と新卒の件で話したことがありましたが、彼のボヤキは

  『本社人事は会社説明会でこの仕事の社会的意義だとか人に喜んでもら
  う仕事だとかの奇麗事を言って学生を盛り上げて採用するが、現場配属
  されてくると、聞いていたことと実態の仕事との乖離に直面して悩んで
  しまうのです。その始末は僕らの責任になって、早期退職された分には
  管理責任をとわれるんですからやってられませんよ。入り口ではもっと
  厳しいこと言ってくれないと、、、。』

しかしあまり厳しいこと言い過ぎると学生は引きますし、バランス難しいものです。


さて新卒採用の難しさを縷々書きましたが、私の意見を言えば新卒採用はいいことだと思います。繰り返しますが、

・真っ白なところから社風に染め上げられる。
・新卒が何期も重なると社風が醸成されて一体感が出る。
・若くしての入職なので実働期間が長い。
・組織の年齢構成のバランスが回復できる。
・先輩社員たちに緊張感が生まれる。
・中途採用より優秀な素材を採用できる可能性が高い。

これらのメリットは貴社の100年の計の礎です。新卒を採れるならそれに越したことはありません。ただし私の経験からは以下の条件付きです。

1.新卒を受け入れるに足る社内環境が出来つつあること。
2.同期採用数はあまり少なくないこと。
3.1課に配属数は1名を超えないこと。
4.任命する教育役のミッションを公認・評価すること。
5.毎年コンスタントに採用すること。

この中では1が最重要です。新芽は貧しい土壌では育ちません。一般に独立系社長は「俺も新卒を採用できるようになった」、資本系社長は「親会社時代経験で新卒好き」という理由で新卒採用したがります。しかし1の確立不十分のまま採用に踏み切りますと、本人も会社も不幸です。しかしこれを怖がると踏み切れません。最初は失敗を繰り返しながら徐々に形を成していくもので、確立するまでには5年は必要でしょう。

2は新卒者のモラールにかかわることで、やはり同期の横のつながりは精神的に助け合えるという利点があり、同期があまり少ないと、孤立感が際立ってしまいます。このためには全社で5名の以上の採用が必要でしょう。もし中途採用と併用する(その会社が過半ですが)なら、合わせて採用数は年間10名以上となりますので、これが出来るのはある程度の規模以上の会社となりましょう。

3は教育役の負担感の問題で、学生から「半人前」の派遣営業マンに変貌させるには、付きっきりに近い状態で最低半年はかかりますので、マネージャーにとっては新卒配属は一人が限度です。

4は教育役のモラールの問題です。これだけ教育に手間隙パワーをかけさせられて、育ったら「今年の新人はレベルが高い」では翌年のやる気が起きません。評価してあげるべきです。

5の理由はいうまでもないでしょう。新卒採用に踏み切るには覚悟がいりますね。


最後にどんな派遣会社が新卒を採用しているかを調べました。
当社作成の人材派遣会社売上げランキング表にある会社105社のホームページを全て開き、2009年度新卒採用告知の掲載されている会社をブルーで塗りました。

新卒採用予定の会社は売上げ100億超の27社中20社(74%)、50億超100億未満では22社中5社(23%)でした。やはり新卒採用は規模の大きい会社に集中しております。資本系のみに限りますと売上げ50億以上24社中新卒採用7社のみ。資本系は新卒採用は消極的であることがわかります。新卒採用している資本系は外販拡大に注力している会社ばかりです。